電脳勇者浪漫活劇”A4” 【何故そうまでして立ち上がる後篇】
- 2014/10/14
- 20:42








タレス地下監獄556階層 魔神収容牢
炸裂する違法改造魔法の照り返しにより明滅を繰り返す監獄の一角、周囲は見渡す限りの大量のモンスターの死骸と夥しい数のクレーターと壁の残骸が散乱している。
『ゴアアアアアアアアオ!!』『ヒィィィキィィィィ!!!』『オッ!!!ゴオッ!!』
《アスラトート》それは阿修羅の如き六本腕にそれぞれ巨大な鉈を携えた狒々(ヒヒ)型の魔神。全長5mほどの巨体で迷宮内を縦横無尽に跳ね回りながら隙を見せた冒険者を文字通り一瞬で挽肉に変える。六連続攻撃に加え、高度な遺失魔法も扱う魔王級モンスターだ。500層から下で現れるアスラトートは監獄仕様の白黒ストライプの囚人服姿にマイナーチェンジされている。
「んどくっせぇなァッオイ!雑魚ちゃん達よォ!?」
数十を越えるアスラトートの群れ、5mを越える巨体の津波が天変地異の如く五人に殺到してくる。その中心、ボーンパターンをあしらったフードの男は旋律を指揮するコンダクターのような仕草で悠然とそれを迎えた。
「CODE=MMF2987Dimension´´――」
「うっわマジっすか!?皆伏せてッス!!」
ヘイトの詠唱にいち早く気が付いたユーゴが全員に警鐘を鳴らす。
「――執行」
刹那、右手の錫杖に巻きつけられた妖精のミイラが絶叫を上げ、積層展開された時空呪文が巨大なしゃぼん球のような厚みと広がりを持って幾百と一面に浮かび上がる。そのひとつひとつが、宇宙のように密な闇と、星のような煌めきに彩られている。
そのポップなエフェクトに反して、何百発と吐き出されたこのしゃぼんは通常であれば一粒で魔導師の奥義。殺傷絶殺の死の塊である。ゆっくりと舞い上がった一粒が最前列を走るアスラトートの口元に触れ、透過した。一瞬、すれ違った部分が白黒に色が反転したかと思った時には唇から下顎にかけてぐるりと、オブジェクト【砂】への変換が完了していた。下顎を失ったアスラトートは長い舌を剝き出しにし、よだれと砂をまき散らして転倒する。その個体はすぐに後続に踏みつぶされ、グチャグチャの肉塊になって腸から同胞に貪られる。アスラトートの本隊が地響きを立ててヘイト達一行に迫る。
「タリホー!!監獄でバカンスと洒落込もうぜぇぇぇ!?」
パチィン!
嬌声を上げてヘイトが指を鳴らす。
「ビィィィィチタイムだ!!!」
それをトリガーに、巨大なシャボンはヘイトを中心に高速で螺旋を描きながら辺り一帯を塵に変えていく。壁も床も敵も何もかも触れたものすべてが砂を詰めた風船が弾けるように分解、散華し砂と化す。
「ぬおっ!?」
クレイブが伏せた刹那、その真上をシャボンが通過して遅れたマントの端を砂に変えた。
「タゲとんないでそれやんの勘弁して下さいッスヘイトさぁん!?」
「むにゃーーっ!ヘイト!無茶苦茶ニャ!やめるニャア!!」
「ここが伝説のヌウウウウウディストビィィチだぜぇぇぇぇ!!!ブヒャハハハハ!!!」
「聞いちゃいねぇ!?」「聞けニャア!?」
一瞬にして地下監獄の一角は敵味方とも阿鼻叫喚の様相と化した。あたり一面砂埃と乱れ舞うシャボンの軌跡で視界がまるで効かなくなっている。
「――っ!」
五里霧中と化した周囲、絶叫を上げる二人のチーターの背後に粉塵を裂いて迫る一つの影をセレンの知覚スキルが捉えた。
「二人とも後ろっ!」
「え?」「にゃ?」
間の抜けた声を上げてセレンを反射的にセレンを見つめるユーゴとカグラ。
『ゴォウ!!!』
砂を引き裂いて現れた六腕の狒々が雄叫びを上げて跳躍し、二人に肉薄する。
「げぇ、撃ち漏らしッスか」
「にゃにゃにゃ」
アスラトートはトリッキーな動きの反面、思考ルーチンが単純な為、監獄の住人であれば最終的には歯牙にもかけなくなるモンスターである。
しかしそれはあくまでも熟練者の話しだ。アスラトートは数多の囚人たちを狩ってきた。その原因はBOD指折りの超攻撃力。アスラトートの六連攻撃の基礎威力は監獄の盾職でさえ正面から二発も貰うとチート適応後のHPが消し飛ぶのだ。表の世界では即死と同義とされている。
『キイィィィィィィィィ!!!』
宙で上体をねじるアスラトート、六本腕と握られた鉈が体に巻きつくように収まる。六連攻撃への予備動作だ。およそ12フレーム、0.2秒後にはフルスロットルで回転するミキサーのように、現在棒立ちの二人をズタズタの挽肉に変える。
筈だった。
「ふんショオッ!」
ガギギギギギン!!!
六本の鉈とユーゴの大剣が尋常ではない速度で衝突し火花を散らす。まるで短剣でも振るうような軽快な動作、いやそれ以上の速度でアスラトートの竜巻のような斬撃を余す事なく撃ち落とす。残像を伴った剣さばきはユーゴの腕を6本以上に錯覚させるほどだ。
(すさまじいパリングだが、明らかに異常だなぁオイ!)
クレイブの想像通り普通の人間の反射神経で行える技ではない。無論、違法改造だ。
改造スキル『ソードバリアLv5+』。従来正面からの攻撃を50%の確率でオートパリィする固有武器スキルだが、改造によってその確率を100%、武器のサイズを大剣まで拡張し威力と可動範囲を飛躍的に上昇させている。
「どっけよオラァッ!!」
『ゴアオッ!?』
乱撃直後の硬化フレーム、アスラトートの手が止まるのとほぼ同タイミングでユーゴの高速薙ぎがアスラトートの巨体を胸から一撃で両断する。断面から血と臓物をまき散らしながら奥の砂溜まりに吹き飛んだ上半身と下半身、それを蹴り飛ばして新たなアスラトートが3体ガチガチと鉈を打ち鳴らしながら飛び込んで来る。
「ニャニャニャ、もうメンドクサイニャー。ユーゴそこに立っとけニャ」
「ウッス!」
ユーゴに前衛での盾役を指示すると、カグラは見下すように敵をねめつけながら、バサリと扇子を広げる。扇子によって隠された口元が内側で淀みない詠唱を開始する。
「隠手」
ボウ、とカグラの周囲にゆらめく炎のような言霊が浮かび上がる。違法改造によるデータ改竄によってハッキリと断定する事は出来ないが、詠唱スタイルからカグラのベースクラスはおそらく陰陽師と推測される。陰陽師は他の魔法職の中でも影属性に特化している事でも知られる。
「鬼手招き・開」
ユーゴのソードバリアによって足止めを食らっている三体のアスラトート、その背後で影の腕が一本、本体の動きを無視して揺れ動いたかと思うとむくりと立体感を持って起き上がる。
《隠手・鬼手招き》この魔法は対象の腕一本分の攻撃力をコピーした式神NPCを一体召喚する効力を持つ。式神NPCのHP自体は少ないが影属性の付加、初撃が高確率でバックスタブとなる、自動追尾等の汎用性の高い能力を備える。上手く利用すればソロプレイでも敵に挟撃を仕掛けることも可能だ。
「――開」
さらに一本分、影の中で鉈持つ腕が立体感を持って立ち上がる。
尚この魔法を違法改造者であるカグラが行使する場合は――
「開々々々々々々々々々々……」
ソロに於いても人海戦術の運用が可能となる。
文言に合わせて際限なくボコボコと立ち上がる影の腕。
「う、うえぇぇ」
その光景に思わずセレンの顔が引きつる。それも無理はない。
何十と伸びる黒い腕の群れ。それぞれの影に明らかに許容量を越えた数の式神が蠢く様は、あたかも穴から這いずり出ようとする大量の蚯蚓のように悍ましく映る。
必死にユーゴに斬りかかり続けるアスラトート達の背後で音もなくのたうつ腕の群れが伸びる。そして詠唱が完了する。
「――開の解ニャ!」
『!?』
自分に覆いかぶさるように殺到した自分の影にアスラトートが振り返るやいなや、身体の至る所から皮膚を突き破って黒い鉈が生えた。
『キィッ!?キィィぐぷちゅ、ぷちゅ』
血の泡が混じった悲鳴がアスラトートの口から零れ、すぐに肉を叩く音だけに変わった。
「相変わらずそれエグイッスねぇ~」
『ぐちゅ、べた、ゴリ、ゴキン……』
串刺し、袈裟切り、横薙ぎ、切り上げ、捻じり刺しetcあまりの手数に五メートルの巨体が一瞬でグチャグチャのミンチと化し、血だまりだけを残して影の中に沈んでいく。
「式神ども、あとはよろしくニャ」
パチン!と軽やかな音を立てて扇子を振り畳むと、カグラの声を受けた主人不在の三つの影はぞるりと血だまりを啜りきり、滑るような速度でヘイトの討ち漏らしの掃討に向かった。
――――
―――――――――
「私……神殿で何回か観たけど」
「ああ、分かっちゃいたが…………まさしく無敵だな」
ザクザクと砂を踏みながら閑散と拓け切ってしまった監獄迷宮の人口砂漠を進むクレイブとセレン。前方ではヘイトが笑いながらモンスターを惨殺し、その討ち漏らしをカグラの引き連れる式神たちが片っ端からぞぶぞぶと呑み込んでいる。違法改造者達の無茶苦茶なチートのパレードには感嘆すら覚える。
「このペースで行けば2、3日中には目的の階層に着きそうッスね!」
二人の護衛に回されたユーゴが一歩前から肩越しに話しかけてくる。ヘイトはもとより、何処か気だるそうなカグラと比べてもユーゴは違法改造者でありながら気さくで話し易い印象を受ける。
「ホント、皆強いね!」
セレンが喜色満面でユーゴに相槌をうつ。かなりストレートに関心しているようだ。クレイブにしてみるといささか警戒心がないとも感じる。既にタメ口だし。
(むぅん)
彼等は自分達カジュアルからするとあまりに強過ぎる、正面からぶつかればほとんど勝ち目がない事に加え、ヘイトの件もある。セレンの立ち回りが、下手に連中の機嫌を損ねてしまわないかクレイブは内心落ち着かなかった。
「へへ、アザーッス!」
ユーゴが赤モヒカンを揺らしながら照れくさそうに笑みを浮かべる。こちらもセレンの賛辞をかなり素直に受け取って喜んでいるようだ。
(まぁ、大丈夫か)
現状、セレンと彼等の関係はかなり良好である。というか彼等との会話相手をほとんど任っきりになっている節さえある。叔父の目から見ても、いや、クレイブの目から見てもセレンは元々かなり社交的で人受けする性質だ。オフはいざ知らず、聞いた限りBODでもかなり交友関係が広い。
「でもお二人のテクが良いからこっちも大した援護いらないんでかなり楽ッスよ。ヘイトさんの話し通り、上じゃあ相当鳴らしたみたいッスネ」
セレンとの会話でユーゴの口もかなり滑らかになっている。まぁ話せば話すほど地下監獄にいるのが似つかわしくない朗らか性格をしているとクレイブは思ってしまう。
「それほどのもんじゃないさ、……けど、ユーゴ君達でも2000階層クラスは厳しいのか?」
「そうッス、かなり厳しいッス」
ユーゴは腕を組んでうんうんと頷きながら、監獄の序列について簡単に説明してくれる。
囚人は常駐エリアごとにだいたい5つの階級に分けられる。まずは地下500層までのエリアをスタラグエリアと呼ぶ。名前の由来はポール・ブリックヒルの原作の19世紀脱走映画の傑作『大脱走』の第三航空兵捕虜収容所(Stalag Luft III)を由来としたものだ。ここまでの階層はごく初期、ベータ版の時代から作られていたためセキュリティが非常に弱く、既に引退した囚人プレイヤーが直通のワープエリアを改造設置した事からこの名前がついた。その為ほとんどの囚人が無視するエリアとなっている。このエリアに限っては時折一般プレイヤーもうろついているのだが、大抵のプレイヤーはちょっかい出すまでもなく魔王級モンスター達に食われる為、近年ではほとんどの囚人は興味を失っている。
1000層までをアルカトラズ級、1600層までをショーシャンク級、2000層までをイフ級、現状の最深部をタルタロス級と呼ぶ。それぞれ実在の刑務所、スティーブン・キング原作の映画、アレクサンドル・デュマの『モンテクリスト伯』、ギリシャ神話。それらの監獄名からそれぞれ引用している。当時流行していたコンシューマーゲームやアニメ由来との諸説もあるがソースは存在しない。
「ていうか、ぶっちゃけ自分の実力はピンだとスプーンッスネ!」
「スプーン?」
セレンが首を傾げる。
「アルカトラズ級の事ッス!」
初級者や操作が不得手の者が集まるアルカトラズ級は全体で二番目に数が多いエリアだ。スプーンとは、19世紀のアメリカ映画『アルカトラズからの脱出』で主演のクリント・イーストウッドが脱出の為に用いた食堂のスプーンを由来としている。意味合いとしては自分でデータをいじれない初級者が掲示板やWIKIで作った稚拙な改造、ようするに下手くそや雑魚といったニュアンスである。
「カグラさんはマッジヤベェッス、イフ級ッス!それもかなり上位ッスよ。あの辺の人たちには正直自分は何やってるかチンプンカンプンな内に殺されるッス!」
「なんか凄そうだね、……カグラさんの式神魔法、実際凄かったし」
「いやそうなんスよ、カグラさんとヘイトさんの魔法マジ凄いんスよ。あ、ヘイトさんも今はイフ級ッスね!でもカグラさんよかさらに半端じゃないッス!!やべぇッス!前はタルタロスだったらしいッスけど飽きたらしいッス!でッスね、この階層だとそうでもないんですけど、1000層くらいからスペル系統ってスゲェラグが激しくなるんスよ」
「へぇ、そうなのか」
監獄内の魔法事情など外では殆ど聞く機会が無い為、これにはクレイブも思わず食いついてしまう。
「そッス!さっきも言いましたけどラグ……ええと、そう!いわゆる改造魔法ってめっちゃ重いんスよ!」
話しに集中し過ぎてユーゴの足が止まる、どう説明したらいいのかを頭をフル回転させて考えてくれているようだ。
「まず普通の魔法でも……ダメージエリアとステータスを呼ぶ為にサーバーを経由するじゃないスか……いやするんスけど……」
仕舞には二人の方へ振り返って、大剣で砂上に図を書き始める。
「ほうほう」
「ふむふむ?」
「でッスよ?」
図を見やすくする為に二人は自然としゃがみ込み、ユーゴも釣られて腰を下ろす。大剣は邪魔なようで横で砂に突き立てている。遠くでは未だに戦闘音が聴こえるが、ユーゴは気にせず指で砂をなぞって解説を続ける。
「BODのセキュリティくぐる為に何個か回避ソフト走らせてるんで、回線も処理速度もパンパンなんスよ。それに、下に潜れば潜るほどセキュリティも更新されてサーバー内の負荷もでかいし……、何より1000層から人口もすげぇ増えてそれでさらに重くなるッス」
「じゃあ魔法職ってかなり不利なんじゃない?」
「不利なんてもんじゃないッスよ。特にショーシャンクエリアだと、ああ、あそこが一番人口密度ヤバイんスけど、処理の重さ半端じゃないッス。発動までのラグが最大で30秒とかんなるッス」
「おっそ!?それ魔法とか使いものにならなくないか!?」
「それがッスネ――」
「ねぇ、なんでショーシャンクなの?」
「おいちょっと待てお嬢さん」
結構いいところだから話しの腰を折るな。と、クレイブが制しようとするが。
「それはッスねセレンさん!」
爪先をグイと回してセレンに向き直るユーゴ。いやお前も乗るなよ、とクレイブは目で訴えるが鉄仮面が邪魔で通じないようだ。悠々と話を続ける。
「あのエリアが一番セキュリティ的にもプレイヤースキル的にもバランスが良くて対戦相手に困んなくて居心地いいらしいッス。で、逆に他のエリアに行く気がなくなる連中多いらしくてですね……」
「ふむん?」
「あ、映画観ました?ショーシャンクの空に」
「ごめん、観てないや……」
「あらら、じゃあ言っても分かんないッスネ~」
「いや観てるぞ」
「え?」
「お前昔、観てたぞ。何回も」
「え、嘘」
「ほら、アンディだよ、アンディ。お前クマの名前にもしてたろ」
「え、あ!あーーーー!?アンディってショーシャンクの空にって映画だったんだ!わ~初めて知った!!」
「え~いやいやいやむしろ何で気が付かなかったンスか!?」
「だ、だってアンディはアンディだし……」
「まぁいいや、で、魔法は」
「ああそうッスね!実は――」
ギュッと膝を回してクレイブに向き直ろうとするユーゴ。そのセットされた赤いモヒカンを真上から降ってきたブーツの踵がグシャリと踏みつぶした。ユーゴはそのまま「うげ」と潰れたカエルのような声を上げて顔から砂に突っ込む。背後からヘイトがニヤニヤと笑みを浮かべながら突っ伏したユーゴの頭を踏みつけている。
「モ・ヒ・カ・ンンンンン~?童貞の分際でご休憩たぁ良い御身分だなぁオ~イ?」
青筋を立てたヘイトはその頭を体重をかけてゴリゴリと踏みにじりながら、フードの奥から嗜虐的な目線を突き刺す。殺気を感じ取ったユーゴが跳ねあがって二人を先導する。というか駆け足で先行していく。
「どわはっ!?、ササ、サーセン!行きましょうお二方!」
「あ、うん!」
「……魔法」
【これが友情の力だ!うおおお後篇】に続く。

財布が見つかったああああああああああああああああああああああああ!!!!おまわりさん大好きいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!
神社で土下座した甲斐があった。効きます神通力。お帰りマイウォレット。ウォレットって言うとオコジョみたいで可愛いですよね。
スポンサーサイト
- テーマ:自作小説(ファンタジー)
- ジャンル:小説・文学
- カテゴリ:お題小説
- CM:0
- TB:0