電脳勇者浪漫活劇”A4” 【前篇】
- 2013/10/24
- 17:21
音声リプレイ記事書くのスンゴイ疲れる。限界。たまには息抜きします。Aさんにお題もらったけど五時間じゃ無理。もう寝る。今夜もお父さん仕事だから。
お題は
[12:03:43] Aさん: 「聖剣アイスエクスカリバー」「隣の半殺し屋」
空から金塊が降ってきて、空から金塊が降ってきても持ってかえれるように毎日筋トレしてた奴がそれを拾ったとたん通行人が眼の色を変えて襲いかかってくるからその猛攻を凌ぎきって家に金塊をトライする話
[12:03:54] Aさん: 好きなのを選べ
[12:04:33] 触手: おk
[12:04:36] 触手: 書く
[12:04:47] Aさん: どれを?!
[12:04:51] 触手: 全部
[12:04:57] 触手: 一つにまとめる
オラァ!!!!
創生のうた。
『あり得ざるものを求め鍛え続ける者達へ、それが持ち帰れますようにと、聖女は言った。』
電脳でんのう
《「電子頭脳」の略》電子計算機。コンピューター。
勇者ゆうしゃ
しばしば英雄と同一視され、誰もが恐れる困難に立ち向かい偉業を成し遂げた者、または成し遂げようとしている者に対する敬意を表す呼称として用いられる。武勇に優れた戦士や、勝敗にかかわらず勇敢に戦った者に対しても用いる。
A4えーよん
ISO 216 用紙サイズ(210mm×297mm)。紙。
ああああ
無限の勇者。
君も会った事がある。彼の目撃情報は絶えない、多くの場合幼少期から少年期にかけて現れる。年を重ねるごとにほとんど見る事がなくなるという。街の冒険者登録所と酒場を往復しながら小銭になるような大量の初期装備を残し、最初の街で少しだけ強い武器を買う手助けをしてくれた、という情報もある。
彼が魔王を倒したところを目撃した者は少ない、だが、彼ほどありとあらゆる電脳世界で目撃された者も少ない。
「ふうん、まるで妖精だなー」
噴水広場。騎士のクレイブが鼻で大きく息を吐いて笑った、彼の本名は日暮浩二(ひぐれこうじ)年齢31歳いて座のB型、東京都豊島区実家の酒屋を潰してコンビニエンスストアのフランチャイズ店のオーナーをしている。この世界ではギルド《国狩り人》のギルドマスターを務めるクラス【重装騎士】クレイブ。総プレイ時間2900時間。
彼が指を弾くとマイクロバイトのテキストファイルは光の粒子になって霧散した。
「でも、興味あるでしょ」
魔法戦士のセレンが悪戯っぽく微笑む。彼女の名前は後藤絵里(ごとうえり)年齢19歳獅子座のO型、埼玉県所沢市から東京の女子大学に通っている。この世界ではフリー登録ギルド《スワロウボックス》で傭兵業を営む、クラス【ストライダー】セレン。総プレイ時間900時間。
彼女は思案顔でこちらを伺うクレイブの視線に合わせ、エルフ族特有の長い耳をからかうようにピクピクと動かした。
「別に、ない」
クレイブが心底煩わしそうにかぶりを振る、銀のフルフェイスヘルムがそれに合わせてカチャリと音を立てる。その様子を見たセレンが肩をいからせて詰め寄る。
「うそつき!」
「嘘じゃない」
眉間に皺を寄せた分かり易く不服そうなセレンの上目遣い。対して、視線をあさっての方向にやって貴族の館の空の甲冑のように微動だにしないクレイブ。視線はそのままの状態で責めるように胸甲を何度も指で押し上げるセレン。
「クレイブはサービス開始時からやってんでしょ?じゃあ興味ない訳ないじゃん!うそつき!あたし気になる!絶対なんかあるって!!」
怒った猫のような剣幕で捲し立てる。
「与太話だ、もう随分釣られた、飽きた面倒だ興味も失せた」
対するクレイブはやはり石像のように動かない。やる気もない。
「もういいよ、それよりお前もうすぐ」
彼が踵を返したその時。
「「「 おじさん!この前の事ここで言うよ? 」」」
彼女はボイスベクトルを【スポット】から【シーン】へと切り替えた。
「ちょ、待て」
広場中の視線がセレンとクレイブに集中する。クレイブは鎧越しにも分かるほど明らかに動揺しながら振り返った。眼前のセレンは動態センサーをどう駆使すればそのような悲壮感が出るのか感心するほど見事に不憫なエルフの少女として瞬時に涙目になってそこに立っていた。
「「「 もう、あたしの事嫌いなの!? 」」」
ボイスベクトル【シーン】は本来クエストの招集や、露店の呼びかけに使用される。視界内のPC全員に音声を飛ばし、更にエリア内のPCのワイプウインドウに位置情報とチャットログを表示する。
「待て、セレン待て!」
「「「 オフでこの前会ったから? 」」」
結果。
『なんだ何の騒ぎだ?』『……なんか泣いてっぞ?』『ウヒョ―修羅場なんですかーwwwwww』
(くっ、早い!)
瞬く間に野次馬は集結した。
「待て、ほんと待て!確かにこの前会ったばっかだが……!」
「「「 ひどいよ、おじさん酷いよ…… 」」」
ざわ……、ざわ……。彼女の一言一言に風に波立つ稲穂のように周囲にざわめきが起きる。『なんだ?援交か?』『おい、あれ《国狩り》のクレイブだろ』『RECしとこwwwwww』『あのエルフっ子デザ良いな』
クレイブは焦りに支配されながらも果敢に思考を加速させる。(駄目だ、このままでは収集がつかなくなって運営に通報される。死んじゃう。)
通報されたら最後、アカウントは凍結され、彼の築き上げてきた2900時間は雲散霧消する。鎧の内側で尋常ではない量の嫌な汗が吹き出している。痴漢冤罪が人生を破壊する恐怖をまさかファンタジー世界で味わう事になるとはクレイブも思わなかった。洒落にならない。
危機を感じとったクレイブの行動は早かった。彼は自身のボイスベクトルを【シーン】に変更。背後に集まっている野次馬達へ振り返って弁明を図った。
「「「 騙されないでくれ!皆!彼女は俺の……っ! 」」」
しかし、どういう訳かクレイブの大音声を前にして群衆は誰一人クレイブを見ていない。視線は全て吸い込まれるように彼の背後へ向けられている。
(なんだ、皆いったい何――)
「「「 もう……これじゃダメなの……? 」」」
後ろで、今にも消え入りそうな儚げな声色がした。
(を見てる―ん――)
「「「 ――だ。 」」」
振り返るクレイブ、全てが遅かった。そこには虚ろな瞳を涙で濡らしながら、自らゆっくりとスカートをたくし上げようとしているセレンの姿があった。鬼手だ。攻勢を緩める気がない。今、この状況の発言権は彼女に収束している。クレイブが状況に対して言及しようと息を吸い込んだ、瞬間彼女は動いた。
「「「 オフの私が…… 」」」
彼女の瞳から大粒の涙が溢れて。
―――ピチャン。
落ちた。
「「「 エルフじゃないから? 」」」
とどめだった。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「「「…………」」」
静まり返る噴水広場、あまりの突拍子もない発言にクレイブは言葉を失った。内心ちょっと面白すぎるからこれならネタで通ると安堵していた。それが間違いだった。
呆然とする彼の背後に、ドワーフが居た。
「旦那ァ……」
ドワーフは訳知り顔でクレイブの肩を叩いた。
「日本に、エルフはいねぇんだよ……」
瞬間、噴水広場は燃え上がった。
『夢の世界を生きてんなアイツ』『リアルでも同じ事やらせたんだろ?』『コスプレ?』『あのエルフ幾つよ?』『未成年?』『未成年のエルフってすげぇ言霊だな』『ソースはよ』『セレンじゃん』『マジかよ』『え?円光なん??』『wwwwwwwwwww』『ネット社会の弊害か』『好みのタイプはエルフでしゅwww』『エルフじゃないと勃たないとか完全病気だろJk……』『鎧だれ?』『国狩りのギルマス』『エルフキャプチャしたったww』『エルフの国陥落ワロタ』『くwwにwwwがwwwりwwwww』
感覚的に分かる、物凄い速度でこの光景が拡散している。周囲はお祭り騒ぎだがクレイブの胸中はドラゴンに焼き払われていく故郷を見るように筆舌し難い絶望に現在進行形で襲われていた。
「「「 や…、やめろ…… 」」」
世界が
『ちゅーほーちまちた★』『グッジョb』『エルフ狩りの季節ですねwwwwwwww』『エルフ狩りと言えばオークでつねwwwww』『誰が上手い事言えと』『エルフが泣いてんねんで!』『ねんねんねんで!!』
「「「 やめろぉ……っ! 」」」
壊れていく。
『『『『『 聴こえてますか~~~~?????マスターオークのクレイブさぁぁぁんwwwwwwwwwwww 』』』』』
「「「 やめてくれえええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!! 」」」
浪漫ろまん
感情的、理想的に物事をとらえること。夢や冒険などへの強いあこがれをもつこと。「―を追う」「―を駆り立てられる」
活劇かつげき
立ち回りなど動きの激しい場面を中心とした映画・演劇。アクションドラマ。
映画・演劇の立ち回りのように激しく派手な格闘。乱闘。「路上で―を演じる」
阿呆あほ
あほとは、愚かなさまや行動、愚かな人。馬鹿と同じ意味で人を罵る言葉である。
でんのうゆうしゃろまんかつげきえーふぉー!!
『電脳勇者浪漫活劇A4!!』

ゲームメディアは技術の進歩を汲み取って新たな地平に達した。脳波を媒介にした新世代体感ゲーム。アクション・アート・アーカイブアクセサー通称A4。
『装着型フルマウントディスプレイから発信される電気信号が右脳を疑似的なレム睡眠状態にする事でリアリティのある夢のようなストレスフリープレイ環境を実現!活動中の左脳がディスプレイから視覚情報を受け取ってリンク、生身と同等の動作システムを可能にさせました!』
『思い描いた未来へようこそ!A4!』
―――サーバーを選んで下さい。
ブレイド・オブ・デューティー
―――ウェルカム、剣と魔法の世界へ
「……それで、何処にあるんだ」
招待されたセレンのマイハウス【森の家】でクレイブはただひたすら机に突っ伏してうなだれながら言った。
「噂ではタレスの地下監獄666階」
「お前、馬鹿にしてるのか……」
その言葉に思わず顔を上げる。
「うんにゃ、マジだよクレイブ」
「どうやって行くんだよ、あそこは運営の作った掃き溜めだぞ」
はじまりの街タレス、多くの冒険者が最初に訪れる街だ。その地下監獄は少し特殊な仕様となっている。
運営が規約違反者に対して行う処罰は3つある。一つはアカウントの凍結、リアルマネートレードや著しく公的に問題のある行為を繰り返したプレイヤーに下される処罰だ。クレイブは先日危うく、これに抵触しかけた。
ちなみにあの日から今日まで、ギルドの女性メンバー(エルフ)との連絡がとれていない。
「…………」
「どうしたのクレイブ?」
「別にィ」
二つ目は警察への通報、犯行予告やその他通常のネット環境での法律に抵触する行為、加えて特筆すべきなのは他プレイヤーへのハッキング行為である。個人情報に違法アクセスするのは無論犯罪だが、A4では端末に人体を使っている為クラッキングによる周辺機器の故障がそのままプレイヤーの肉体に悪影響を及ぼす危険性がある。その結果、過去幾つかの判例では傷害、強盗の罪状が付加されたケースが存在する。
三つ目はキャラクターの違法改造に対する処罰。それがタレスの地下監獄だ。
ブレイド・オブ・デューティー(BOD)ではあまりにも強すぎる敵によって戦闘不能になった際にキャラクターがロストするシステムが存在する。このロストは専用の高価な課金アイテムで復活が可能だ。この事からプレイヤー達の間ではこの状態を【本死亡】と呼称さている。この極端なレベル間における本死亡状態はPC同士によるPK行為時にも発生する、だがそれほど極端なレベル差はゲームのシステム上存在しえないものだった。
チート行為を除いて。
結果、はじまりの街タレスはサービス開始から半年にしてチートプレイヤー達が一般のプレイヤーを狩り、相次いでロストさせ続けるという事態が発生した。当時のタレスは壊れたグラフィックの殺人鬼が闊歩する魔境と化していた。
この騒動は運営が多額の資金を費やしてシステムセキュリティを著しく向上させた上、データ的に完全に無敵の管理NPCをはじまりの街タレスに配置する事で集結した。管理NPCの名は【タレスの守護者】グラフィックは乳白色の巨大なゴーレム。
だが、ハッカー達とのイタチごっこになる事を恐れた運営は彼等に舞台を用意した。着想はチートプレイヤーと【タレスの守護者】の激突にあった。
結果的には言うまでもなく、データ的に無傷の状態でNPC側が勝利した。
しかし、巨大な無敵のゴーレムに対してありとあらゆる大魔法、最強武器、違法魔術、改造装備を駆使して闘うチートプレイヤー達は《見世物》として優れた価値を有していた。粛清当初、多くの動画サイトではチートプレイヤー達がゴーレムに叩き潰されてロストする映像が出回ったが、徐々にチートプレイヤー達の鮮やかな散り様を称賛する編集動画が現れ始めた。
あたかも、神の怒りに触れた悪魔達の最期の光景の如く。
それを、運営は世界観に取り入れた。太古の悪魔達が今も囚われ続ける迷宮、【タレス地下監獄】。そこは指定された違法アカウントが自動的に転送されるチートプレイヤー達の舞台となった。
ダンジョン内に出口はなく、ディープクラスの魔王級モンスターが跋扈している。セキュリティは違法データに対応して随時更新され、下階層の指定エリアに到達できなければロスト以外の方法でのログアウトは不可能。
チートプレイヤー達はそして、燃え上がった。
あらゆる方法を駆使して指定エリアに到達するものが続出し、タレス地下監獄はその都度、深度を増した。際限なく広がる電脳の闇の底を下るように、彼等は歓喜とともに息を呑むような戦いを繰り返した。
このゲーム内に新たなゲーム枠を用意する手法は大きな反響を呼び、加えてこの監獄に挑戦しようと様々な違法改造者達がブレイド・オブ・デューティーに集った。
映像は定期的にタレスの戦神神殿の大鏡にアップロードされ、運営はチートプレイヤー達の生み出した改造エフェクト、改造グラフィックの中で優れたものを買い取り、そのキャラクター名を冠した特殊装備や禁断呪文として配信した。これは通称【魔人具】と呼ばれている。
【タレスの地下監獄】はBODであってBODではない、言うなればゲーム内に存在する、もう一つのまったく異なるゲームシステム。
「いやだね、いきたくない、100%ロストする自信がある」
クレイブのその言葉を受けてセレンが俯きがちに肩を落とす。
「…………」
「だいたい何でお前があんなん欲しがるんだよ……金か?」
「……違う」
「じゃあ何だよ……」
「お願い……」
「お願いつったってなぁ、お前」
「お願い、おじさん」
その縋るような声は、昔から彼女がどうしようもない時に彼に投げかけてきた声色だ。
「……」
クレイブは頭を掻く、とは言ってもグラフィック的にはフルフェイスヘルムの頭を撫でているだけだが。しばしガチガチと鎧の擦れる音が室内に響き、すぐに気まずいほどに静かになった。
「……」
「……」
「……」
「……最後だぞ?」
こうなってしまったら、最初から負けだ。
「ホント!?」
その言葉にパッと顔を上げて目を輝かせるセレン。
「ああ、でもゲーム内でお前のヘルプすんのはこれっきりだ。分かっ」
「ありがと大好きおっじさぁんっ!」
ドガッシャン!
「フグはァ!?」
セレンのグラップルスキルを利用した高速組み着きに転倒してHPロスを受けるクレイブ。そんな事を気にもせずセレンは欲しかったぬいぐるみに飛びつく少女のように満面の笑みでクレイブの腰に頬をこすりつけている。
(あーあーホント甘いなぁ俺ェ……)
実際、彼が彼女の頼みを断れた事など、一度もなかった。
「マジでどうすっかコレ……」
「おじさぁぁぁぁぁん」ゴロゴロゴロ
(邪魔くせぇ……)
とりあえずその日の発注はパートの山田さんに任せようと、彼は思った。
つづく

お題は
[12:03:43] Aさん: 「聖剣アイスエクスカリバー」「隣の半殺し屋」
空から金塊が降ってきて、空から金塊が降ってきても持ってかえれるように毎日筋トレしてた奴がそれを拾ったとたん通行人が眼の色を変えて襲いかかってくるからその猛攻を凌ぎきって家に金塊をトライする話
[12:03:54] Aさん: 好きなのを選べ
[12:04:33] 触手: おk
[12:04:36] 触手: 書く
[12:04:47] Aさん: どれを?!
[12:04:51] 触手: 全部
[12:04:57] 触手: 一つにまとめる
オラァ!!!!
創生のうた。
『あり得ざるものを求め鍛え続ける者達へ、それが持ち帰れますようにと、聖女は言った。』
電脳でんのう
《「電子頭脳」の略》電子計算機。コンピューター。
勇者ゆうしゃ
しばしば英雄と同一視され、誰もが恐れる困難に立ち向かい偉業を成し遂げた者、または成し遂げようとしている者に対する敬意を表す呼称として用いられる。武勇に優れた戦士や、勝敗にかかわらず勇敢に戦った者に対しても用いる。
A4えーよん
ISO 216 用紙サイズ(210mm×297mm)。紙。
ああああ
無限の勇者。
君も会った事がある。彼の目撃情報は絶えない、多くの場合幼少期から少年期にかけて現れる。年を重ねるごとにほとんど見る事がなくなるという。街の冒険者登録所と酒場を往復しながら小銭になるような大量の初期装備を残し、最初の街で少しだけ強い武器を買う手助けをしてくれた、という情報もある。
彼が魔王を倒したところを目撃した者は少ない、だが、彼ほどありとあらゆる電脳世界で目撃された者も少ない。
「ふうん、まるで妖精だなー」
噴水広場。騎士のクレイブが鼻で大きく息を吐いて笑った、彼の本名は日暮浩二(ひぐれこうじ)年齢31歳いて座のB型、東京都豊島区実家の酒屋を潰してコンビニエンスストアのフランチャイズ店のオーナーをしている。この世界ではギルド《国狩り人》のギルドマスターを務めるクラス【重装騎士】クレイブ。総プレイ時間2900時間。
彼が指を弾くとマイクロバイトのテキストファイルは光の粒子になって霧散した。
「でも、興味あるでしょ」
魔法戦士のセレンが悪戯っぽく微笑む。彼女の名前は後藤絵里(ごとうえり)年齢19歳獅子座のO型、埼玉県所沢市から東京の女子大学に通っている。この世界ではフリー登録ギルド《スワロウボックス》で傭兵業を営む、クラス【ストライダー】セレン。総プレイ時間900時間。
彼女は思案顔でこちらを伺うクレイブの視線に合わせ、エルフ族特有の長い耳をからかうようにピクピクと動かした。
「別に、ない」
クレイブが心底煩わしそうにかぶりを振る、銀のフルフェイスヘルムがそれに合わせてカチャリと音を立てる。その様子を見たセレンが肩をいからせて詰め寄る。
「うそつき!」
「嘘じゃない」
眉間に皺を寄せた分かり易く不服そうなセレンの上目遣い。対して、視線をあさっての方向にやって貴族の館の空の甲冑のように微動だにしないクレイブ。視線はそのままの状態で責めるように胸甲を何度も指で押し上げるセレン。
「クレイブはサービス開始時からやってんでしょ?じゃあ興味ない訳ないじゃん!うそつき!あたし気になる!絶対なんかあるって!!」
怒った猫のような剣幕で捲し立てる。
「与太話だ、もう随分釣られた、飽きた面倒だ興味も失せた」
対するクレイブはやはり石像のように動かない。やる気もない。
「もういいよ、それよりお前もうすぐ」
彼が踵を返したその時。
「「「 おじさん!この前の事ここで言うよ? 」」」
彼女はボイスベクトルを【スポット】から【シーン】へと切り替えた。
「ちょ、待て」
広場中の視線がセレンとクレイブに集中する。クレイブは鎧越しにも分かるほど明らかに動揺しながら振り返った。眼前のセレンは動態センサーをどう駆使すればそのような悲壮感が出るのか感心するほど見事に不憫なエルフの少女として瞬時に涙目になってそこに立っていた。
「「「 もう、あたしの事嫌いなの!? 」」」
ボイスベクトル【シーン】は本来クエストの招集や、露店の呼びかけに使用される。視界内のPC全員に音声を飛ばし、更にエリア内のPCのワイプウインドウに位置情報とチャットログを表示する。
「待て、セレン待て!」
「「「 オフでこの前会ったから? 」」」
結果。
『なんだ何の騒ぎだ?』『……なんか泣いてっぞ?』『ウヒョ―修羅場なんですかーwwwwww』
(くっ、早い!)
瞬く間に野次馬は集結した。
「待て、ほんと待て!確かにこの前会ったばっかだが……!」
「「「 ひどいよ、おじさん酷いよ…… 」」」
ざわ……、ざわ……。彼女の一言一言に風に波立つ稲穂のように周囲にざわめきが起きる。『なんだ?援交か?』『おい、あれ《国狩り》のクレイブだろ』『RECしとこwwwwww』『あのエルフっ子デザ良いな』
クレイブは焦りに支配されながらも果敢に思考を加速させる。(駄目だ、このままでは収集がつかなくなって運営に通報される。死んじゃう。)
通報されたら最後、アカウントは凍結され、彼の築き上げてきた2900時間は雲散霧消する。鎧の内側で尋常ではない量の嫌な汗が吹き出している。痴漢冤罪が人生を破壊する恐怖をまさかファンタジー世界で味わう事になるとはクレイブも思わなかった。洒落にならない。
危機を感じとったクレイブの行動は早かった。彼は自身のボイスベクトルを【シーン】に変更。背後に集まっている野次馬達へ振り返って弁明を図った。
「「「 騙されないでくれ!皆!彼女は俺の……っ! 」」」
しかし、どういう訳かクレイブの大音声を前にして群衆は誰一人クレイブを見ていない。視線は全て吸い込まれるように彼の背後へ向けられている。
(なんだ、皆いったい何――)
「「「 もう……これじゃダメなの……? 」」」
後ろで、今にも消え入りそうな儚げな声色がした。
(を見てる―ん――)
「「「 ――だ。 」」」
振り返るクレイブ、全てが遅かった。そこには虚ろな瞳を涙で濡らしながら、自らゆっくりとスカートをたくし上げようとしているセレンの姿があった。鬼手だ。攻勢を緩める気がない。今、この状況の発言権は彼女に収束している。クレイブが状況に対して言及しようと息を吸い込んだ、瞬間彼女は動いた。
「「「 オフの私が…… 」」」
彼女の瞳から大粒の涙が溢れて。
―――ピチャン。
落ちた。
「「「 エルフじゃないから? 」」」
とどめだった。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「「「…………」」」
静まり返る噴水広場、あまりの突拍子もない発言にクレイブは言葉を失った。内心ちょっと面白すぎるからこれならネタで通ると安堵していた。それが間違いだった。
呆然とする彼の背後に、ドワーフが居た。
「旦那ァ……」
ドワーフは訳知り顔でクレイブの肩を叩いた。
「日本に、エルフはいねぇんだよ……」
瞬間、噴水広場は燃え上がった。
『夢の世界を生きてんなアイツ』『リアルでも同じ事やらせたんだろ?』『コスプレ?』『あのエルフ幾つよ?』『未成年?』『未成年のエルフってすげぇ言霊だな』『ソースはよ』『セレンじゃん』『マジかよ』『え?円光なん??』『wwwwwwwwwww』『ネット社会の弊害か』『好みのタイプはエルフでしゅwww』『エルフじゃないと勃たないとか完全病気だろJk……』『鎧だれ?』『国狩りのギルマス』『エルフキャプチャしたったww』『エルフの国陥落ワロタ』『くwwにwwwがwwwりwwwww』
感覚的に分かる、物凄い速度でこの光景が拡散している。周囲はお祭り騒ぎだがクレイブの胸中はドラゴンに焼き払われていく故郷を見るように筆舌し難い絶望に現在進行形で襲われていた。
「「「 や…、やめろ…… 」」」
世界が
『ちゅーほーちまちた★』『グッジョb』『エルフ狩りの季節ですねwwwwwwww』『エルフ狩りと言えばオークでつねwwwww』『誰が上手い事言えと』『エルフが泣いてんねんで!』『ねんねんねんで!!』
「「「 やめろぉ……っ! 」」」
壊れていく。
『『『『『 聴こえてますか~~~~?????マスターオークのクレイブさぁぁぁんwwwwwwwwwwww 』』』』』
「「「 やめてくれえええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!! 」」」
浪漫ろまん
感情的、理想的に物事をとらえること。夢や冒険などへの強いあこがれをもつこと。「―を追う」「―を駆り立てられる」
活劇かつげき
立ち回りなど動きの激しい場面を中心とした映画・演劇。アクションドラマ。
映画・演劇の立ち回りのように激しく派手な格闘。乱闘。「路上で―を演じる」
阿呆あほ
あほとは、愚かなさまや行動、愚かな人。馬鹿と同じ意味で人を罵る言葉である。
でんのうゆうしゃろまんかつげきえーふぉー!!
『電脳勇者浪漫活劇A4!!』

ゲームメディアは技術の進歩を汲み取って新たな地平に達した。脳波を媒介にした新世代体感ゲーム。アクション・アート・アーカイブアクセサー通称A4。
『装着型フルマウントディスプレイから発信される電気信号が右脳を疑似的なレム睡眠状態にする事でリアリティのある夢のようなストレスフリープレイ環境を実現!活動中の左脳がディスプレイから視覚情報を受け取ってリンク、生身と同等の動作システムを可能にさせました!』
『思い描いた未来へようこそ!A4!』
―――サーバーを選んで下さい。

―――ウェルカム、剣と魔法の世界へ
「……それで、何処にあるんだ」
招待されたセレンのマイハウス【森の家】でクレイブはただひたすら机に突っ伏してうなだれながら言った。
「噂ではタレスの地下監獄666階」
「お前、馬鹿にしてるのか……」
その言葉に思わず顔を上げる。
「うんにゃ、マジだよクレイブ」
「どうやって行くんだよ、あそこは運営の作った掃き溜めだぞ」
はじまりの街タレス、多くの冒険者が最初に訪れる街だ。その地下監獄は少し特殊な仕様となっている。
運営が規約違反者に対して行う処罰は3つある。一つはアカウントの凍結、リアルマネートレードや著しく公的に問題のある行為を繰り返したプレイヤーに下される処罰だ。クレイブは先日危うく、これに抵触しかけた。
ちなみにあの日から今日まで、ギルドの女性メンバー(エルフ)との連絡がとれていない。
「…………」
「どうしたのクレイブ?」
「別にィ」
二つ目は警察への通報、犯行予告やその他通常のネット環境での法律に抵触する行為、加えて特筆すべきなのは他プレイヤーへのハッキング行為である。個人情報に違法アクセスするのは無論犯罪だが、A4では端末に人体を使っている為クラッキングによる周辺機器の故障がそのままプレイヤーの肉体に悪影響を及ぼす危険性がある。その結果、過去幾つかの判例では傷害、強盗の罪状が付加されたケースが存在する。
三つ目はキャラクターの違法改造に対する処罰。それがタレスの地下監獄だ。
ブレイド・オブ・デューティー(BOD)ではあまりにも強すぎる敵によって戦闘不能になった際にキャラクターがロストするシステムが存在する。このロストは専用の高価な課金アイテムで復活が可能だ。この事からプレイヤー達の間ではこの状態を【本死亡】と呼称さている。この極端なレベル間における本死亡状態はPC同士によるPK行為時にも発生する、だがそれほど極端なレベル差はゲームのシステム上存在しえないものだった。
チート行為を除いて。
結果、はじまりの街タレスはサービス開始から半年にしてチートプレイヤー達が一般のプレイヤーを狩り、相次いでロストさせ続けるという事態が発生した。当時のタレスは壊れたグラフィックの殺人鬼が闊歩する魔境と化していた。
この騒動は運営が多額の資金を費やしてシステムセキュリティを著しく向上させた上、データ的に完全に無敵の管理NPCをはじまりの街タレスに配置する事で集結した。管理NPCの名は【タレスの守護者】グラフィックは乳白色の巨大なゴーレム。
だが、ハッカー達とのイタチごっこになる事を恐れた運営は彼等に舞台を用意した。着想はチートプレイヤーと【タレスの守護者】の激突にあった。
結果的には言うまでもなく、データ的に無傷の状態でNPC側が勝利した。
しかし、巨大な無敵のゴーレムに対してありとあらゆる大魔法、最強武器、違法魔術、改造装備を駆使して闘うチートプレイヤー達は《見世物》として優れた価値を有していた。粛清当初、多くの動画サイトではチートプレイヤー達がゴーレムに叩き潰されてロストする映像が出回ったが、徐々にチートプレイヤー達の鮮やかな散り様を称賛する編集動画が現れ始めた。
あたかも、神の怒りに触れた悪魔達の最期の光景の如く。
それを、運営は世界観に取り入れた。太古の悪魔達が今も囚われ続ける迷宮、【タレス地下監獄】。そこは指定された違法アカウントが自動的に転送されるチートプレイヤー達の舞台となった。
ダンジョン内に出口はなく、ディープクラスの魔王級モンスターが跋扈している。セキュリティは違法データに対応して随時更新され、下階層の指定エリアに到達できなければロスト以外の方法でのログアウトは不可能。
チートプレイヤー達はそして、燃え上がった。
あらゆる方法を駆使して指定エリアに到達するものが続出し、タレス地下監獄はその都度、深度を増した。際限なく広がる電脳の闇の底を下るように、彼等は歓喜とともに息を呑むような戦いを繰り返した。
このゲーム内に新たなゲーム枠を用意する手法は大きな反響を呼び、加えてこの監獄に挑戦しようと様々な違法改造者達がブレイド・オブ・デューティーに集った。
映像は定期的にタレスの戦神神殿の大鏡にアップロードされ、運営はチートプレイヤー達の生み出した改造エフェクト、改造グラフィックの中で優れたものを買い取り、そのキャラクター名を冠した特殊装備や禁断呪文として配信した。これは通称【魔人具】と呼ばれている。
【タレスの地下監獄】はBODであってBODではない、言うなればゲーム内に存在する、もう一つのまったく異なるゲームシステム。
「いやだね、いきたくない、100%ロストする自信がある」
クレイブのその言葉を受けてセレンが俯きがちに肩を落とす。
「…………」
「だいたい何でお前があんなん欲しがるんだよ……金か?」
「……違う」
「じゃあ何だよ……」
「お願い……」
「お願いつったってなぁ、お前」
「お願い、おじさん」
その縋るような声は、昔から彼女がどうしようもない時に彼に投げかけてきた声色だ。
「……」
クレイブは頭を掻く、とは言ってもグラフィック的にはフルフェイスヘルムの頭を撫でているだけだが。しばしガチガチと鎧の擦れる音が室内に響き、すぐに気まずいほどに静かになった。
「……」
「……」
「……」
「……最後だぞ?」
こうなってしまったら、最初から負けだ。
「ホント!?」
その言葉にパッと顔を上げて目を輝かせるセレン。
「ああ、でもゲーム内でお前のヘルプすんのはこれっきりだ。分かっ」
「ありがと大好きおっじさぁんっ!」
ドガッシャン!
「フグはァ!?」
セレンのグラップルスキルを利用した高速組み着きに転倒してHPロスを受けるクレイブ。そんな事を気にもせずセレンは欲しかったぬいぐるみに飛びつく少女のように満面の笑みでクレイブの腰に頬をこすりつけている。
(あーあーホント甘いなぁ俺ェ……)
実際、彼が彼女の頼みを断れた事など、一度もなかった。
「マジでどうすっかコレ……」
「おじさぁぁぁぁぁん」ゴロゴロゴロ
(邪魔くせぇ……)
とりあえずその日の発注はパートの山田さんに任せようと、彼は思った。
つづく

スポンサーサイト