オーケストラセル資料①
- 2013/09/28
- 04:17
セッション時にPC④へ配布した敵勢力の調査資料です。
セッション中、シーン内でキャラクターに対して紙媒体の実際の資料を手渡すのはとても楽しいのですが、テキスト類は量が多いと読み込む事が出来ない、或いは逆にセッションの妨げになる事もあるので、基本的に写真やイラストなどを渡すのがベターです。この資料は無駄に長いのでお暇な時にどうぞ。
涙目のバロール第一話①リンク
オーケストラセルに関する調査資料①
セルリーダー
マスターオーケストラ 『レオニード・アンセム』
DATA
性別:男 年齢:51歳 出身:イギリス
シンドローム:ハヌマーン/オルクス

オーケストラセルのセルリーダーにしてメンバーたちの「父」。災害級ジャーム指定。
外見は体格のよい壮年の白人、ライオンのような豊かな金髪を後ろに撫で付けている。
かつては最初期のUGNイリーガルであった。当時のコードネームは【ゴールド】。卓越した音の使い手であり、80年代から90年代にかけて数多の功績と、それよりも多くの人々を救った。
とある事件をきっかけにUGNを離反。その数年後FH幹部としてUGNの前に現れた。
マスターオーケストラは既に衝動に呑まれている。
彼の戦友にして、無二の友であった元UGNドイツ支部長クラウス・ヴィンデルゲンハイム氏(故人)によれば「レオンは衝動のままに、彼の家族を脅かす世界を破壊しようとしている」のだという。
▼以下、ドイツ支部に残された記録を基に作成したマスターオーケストラの経歴である。
1961年- レオニード・アンセムは英国の首都ロンドンで音楽一家の長男として生を受けた。
幼少期から音楽に対する並々ならぬ才能を発揮する。
1975年- 当時13歳、名門イギリス王立音学大学に飛び級で進学。以降様々な栄誉と勲章を授かる。
16歳の宮廷演奏会の折、エリザベス女王陛下より直々に賛辞を授かる。
『黄金の旋律』『若き獅子』、当時のレオニードを女王陛下はそう絶賛した。
1982年- 当時20歳、遠征先のモスクワで飛行機事故。この事故でオーヴァードとして覚醒する。同乗していた天才ヴァイオリニスト、エレン・ヴィクトリア(当時18歳)もこの時同様にシンドロームを発症する。
自らの超常的力に苦悩する2人は、後にUGNの実働部隊の前身となる地下組織に身を置くドイツ人、クラウス・ヴィンデルゲンハイム(当時24歳)と出会い、その力と向かい合う術を教授される。三人は以降、度々行動を共にし深い友情を育む事となる。

当時のクラウス氏。
1993年- 31歳のレオニードはUGN設立に伴い、指揮者としての音楽活動の傍らUGNイリーガルとして本格的にクラウスの作戦活動に協力する事となる。
当時レオニード、エレン、クラウスの三人は『トリオ』と呼ばれ対立するFH側から怖れられた。その翌年エレンはレオニード率いる交響楽団の男性と結婚。一人の女児を授かる。
1995年- ホール・エトワール壊殺事件。レオニードとエレンはパリでの公演中FHによる襲撃を受ける。原因はUGN側の情報漏洩であった。観客含む数十名が死傷。重軽傷合わせ200人を越える惨事となった。
レオニードとエレンにとって家族とも呼べる交響楽団は二人を残し全員が死亡。その中には無論エレンの夫の姿もあった。この時彼女の精神は現実に耐え切れず崩壊し、ジャーム化。暴走後FHにより拘束、回収される。エレンの両親と共に楽屋に来ていた当時1歳足らずの娘もまた、FHに誘拐される。
1997年- プロジェクト・アダムカドモン。ジャームを人に戻すという名目で打ち上げられたUGNとFHの共同計画。その被験体の中にエレンがいるとの情報を得たクラウスは、レオニードと共に収容中の派生施設に襲撃をかけた。そこで彼らが何を目にしたのかは定かではないが、記録によれば暴走したジャーム群との大規模な戦闘があったようだ。
三歳になるエレンの娘を救出した二人は幾つかの証拠資料を手に、施設を破壊した。
▼以下はクラウス氏が、レオニード・アンセム失踪前に交わした最後の記録である。
施設襲撃から数日、レオンはあらゆる連絡を絶っていた。不安に駆られた私は彼の家に訪れた。エトワールの事件を思い出していた、あの日私は祖国にいた。また、目を離している隙に大切なものが消えていくのではないかと、私の心ひどく怯え、そして焦燥に満ちていた。
『いるんだなレオン。入るぞ』
部屋に入って、私は胸を撫で下ろした。薄暗い室内でレオンは鼻歌まじりにモニターを眺めていた。
『ああ、クラウスか』
私に気が付くとレオンは少し呆けたような顔で耳からイヤーフォンを外して、椅子を回した。私は先程の不安は杞憂だったのだと思った、だがそれは違った。
モニター、病的に白いだけの部屋の隅で一人の女が首を傾けて忙しなく右腕を動かしている。
エレンだ。
押収した記録映像の中で、彼女は虚ろな目でひたすらヴァイオリンを弾く真似をしていた。
『いったい何を観ている』
『彼女のチャイコフスキーさ』
聴くか?そう言われて耳に近づけられたイヤーフォンを、私は払い落した。そこから聞えてくるのがヴァイオリンの旋律などではなく、彼女の抑揚のないうめき声だったからだ。
『レオン、私にはチャイコフスキーなど聴こえない』
『聴こえるさ』
レオンは画面に戻って、鼻歌の続きを歌い始める。私は理解した。レオンは彼女の動きだけで、彼女のヴァイオリンの全てを聴いているのだと。
滑らかな動きで右手がリズムを刻む。レオンはまるでオーケストラの只中に立つ指揮者のように振舞った。
私の友はあまりにも雄大な王であった。
腕の一振りが、視線のひと掬いが、次第に熱を帯びて世界を築く様を感じた。そこには確かに、黄金の旋律と謳われた獅子の王国があった。
『やめろ』
私は呻くように言った。自分の頬が小刻みに震えるのに気付く。涙が零れている。
一瞬、凡百な感性しか持たぬ私でさえあの日のオーケストラを幻視した。ならばレオンには聴こえるのだろう、見えるのだろう、私よりも遥かに鮮明で優雅な彼の愛したオーケストラが。だが
『聴こえないんだ、レオン』
部屋にはもう、静寂があるばかりなのだ。
『うおおおおおおおおっ!!』
指揮を止めたレオンは獣のような叫びを上げテーブルを拳で殴りつける。テーブルは木屑を散らしながら砕けた。
『何故だクラウス!?何故奴らは彼女に楽器を与えなかった!誰の目にも明らかだっただろう、残り一枚で埋まるパズルのように!与えればっ!与えてさえいればヴァイオリンは喜んで彼女をアーティストにしたっ!稀代の天才ソリスト、エレン・ヴィクトリアのその腕の中に何故ヴァイオリンがないのだっ!!?』
レオンは血のように涙を流した。私はその奥にある彼の魂から流れ出る痛みを感じた。
『見たとおりだクラウスッ!化け物である以前に彼女はアーティストだった!!見えるだろう、壊れても尚、天上のハーモニーを求め続ける彼女の崇高な魂がっ!?ならば何故!?何故彼女がこのような辱めを受けねばならない!?いったい誰が……っ!?これではまるでピエロだっ!!オーヴァードには楽器など要らぬとでも思っていたのかっっ!?ふ、ざけるなァっっッ!!!』
『レオンッ!?』
レオンから放たれた強力な「音」の振動共鳴。荒れ狂う音の洪水は、瞬く間に部屋中の物体を破壊し、粉砕し、吹き飛ばしていく。
『くっ』
反射的に電磁障壁を展開した私は、障壁越しに左の機腕で彼を殴打し雷針を打ち込んだ。
音は止んで、静けさの中に彼は倒れた。
楽譜の紙片が宙を舞っていたのをよく覚えている。それは枯葉のように、私と、彼に降り積もった。
残骸のような部屋の中心で、レオンは天井を仰ぎ見て言った。
『……なんという世界なのだ、ここは』
『落ち着くんだ、……いいか、まだエレンの娘が、アルベルタが居るんだ』
『アルベルタ……』
『そうだっ、まだあの子が居る。頼むレオン。どうかヤケにならないでくれ。いいか?今治療班を呼ぶ、そこでじっとしているんだ!』
この時の事を私はいつも後悔する。どうしてあの場を離れたのか。彼の手をとって、あの滅んだ王国から、どうして彼を救い出してやらなかったのか。
懺悔しよう。私は逃げ出したのだ。
直視出来なかったのだ、レオンの映し出す、いや、レオンが見ていた、そして彼を通して私が垣間見たあまりにも残酷な世界の真実を。全て悪い夢だと思い込みたかった。
だが、それはあまりにも、愚かな行為だった。
クラウス氏が部屋に戻った時には、倒れていたレオニードの姿は忽然と消えており。その数日後、UGNに保護されていたエレンの娘、アルベルタもまた行方を眩ませた。
2001年- 失踪から四年後。イスラエル近郊でレオニード・アンセムの目撃証言が相次ぎ、当時のミュンヘン支部、支部長クラウス・ヴィンデルゲンハイム(当時43歳)は急遽、自身を中心とした古参UGNエージェントによる捜索チームを結成した。
2002年- 慟哭のエルサレム。レオニードとエレン、そしてクラウス。三人の初めて邂逅から二十年。
二人の男は互いを敵として再び対峙した。この時、レオニードは新たに「オルクス」のシンドロームに覚醒していた。後の考証で明らかになる事実だが、マスターオーケストラ「レオニード・アンセム」は二つのシンドロームを極限まで使いこなす、言わば『クロスピュアブリード』である事が判明する。その原因は定かではない。
そしてこの日、レオニード率いるオーケストラセルの存在が明らかになった。
この戦いでクラウス氏は死去。捜索チームは一名を残して全滅し、その一名もまたオーケストラセルの声明をUGN側に伝えるために意図的に生かされたものだった。街ひとつ壊滅に追い込んだこの事件の死傷者の具体的な数は不明だが、重軽傷併せ数千人に上るとの見方もある。
まさしく未曾有の惨事であった。
▼以下が生き残った隊員の証言した、オーケストラセルの声明文である。
―――聴くがいい、我等はオーケストラ。終末の旋律で世界を踏み砕き、行進する演奏者だ。
臓物で聴くがいい。絶叫に見るがいい。眼球に祈りたまえ、我等の奏でる新たな世界の姿を。
我等はオーケストラ。変貌する世界の歓喜に打ち震える真実の細胞なり。
オーケストラセル資料②リンク
セッション中、シーン内でキャラクターに対して紙媒体の実際の資料を手渡すのはとても楽しいのですが、テキスト類は量が多いと読み込む事が出来ない、或いは逆にセッションの妨げになる事もあるので、基本的に写真やイラストなどを渡すのがベターです。この資料は無駄に長いのでお暇な時にどうぞ。

オーケストラセルに関する調査資料①
セルリーダー
マスターオーケストラ 『レオニード・アンセム』
DATA
性別:男 年齢:51歳 出身:イギリス
シンドローム:ハヌマーン/オルクス

オーケストラセルのセルリーダーにしてメンバーたちの「父」。災害級ジャーム指定。
外見は体格のよい壮年の白人、ライオンのような豊かな金髪を後ろに撫で付けている。
かつては最初期のUGNイリーガルであった。当時のコードネームは【ゴールド】。卓越した音の使い手であり、80年代から90年代にかけて数多の功績と、それよりも多くの人々を救った。
とある事件をきっかけにUGNを離反。その数年後FH幹部としてUGNの前に現れた。
マスターオーケストラは既に衝動に呑まれている。
彼の戦友にして、無二の友であった元UGNドイツ支部長クラウス・ヴィンデルゲンハイム氏(故人)によれば「レオンは衝動のままに、彼の家族を脅かす世界を破壊しようとしている」のだという。
▼以下、ドイツ支部に残された記録を基に作成したマスターオーケストラの経歴である。
1961年- レオニード・アンセムは英国の首都ロンドンで音楽一家の長男として生を受けた。
幼少期から音楽に対する並々ならぬ才能を発揮する。
1975年- 当時13歳、名門イギリス王立音学大学に飛び級で進学。以降様々な栄誉と勲章を授かる。
16歳の宮廷演奏会の折、エリザベス女王陛下より直々に賛辞を授かる。
『黄金の旋律』『若き獅子』、当時のレオニードを女王陛下はそう絶賛した。
1982年- 当時20歳、遠征先のモスクワで飛行機事故。この事故でオーヴァードとして覚醒する。同乗していた天才ヴァイオリニスト、エレン・ヴィクトリア(当時18歳)もこの時同様にシンドロームを発症する。
自らの超常的力に苦悩する2人は、後にUGNの実働部隊の前身となる地下組織に身を置くドイツ人、クラウス・ヴィンデルゲンハイム(当時24歳)と出会い、その力と向かい合う術を教授される。三人は以降、度々行動を共にし深い友情を育む事となる。


1993年- 31歳のレオニードはUGN設立に伴い、指揮者としての音楽活動の傍らUGNイリーガルとして本格的にクラウスの作戦活動に協力する事となる。
当時レオニード、エレン、クラウスの三人は『トリオ』と呼ばれ対立するFH側から怖れられた。その翌年エレンはレオニード率いる交響楽団の男性と結婚。一人の女児を授かる。
1995年- ホール・エトワール壊殺事件。レオニードとエレンはパリでの公演中FHによる襲撃を受ける。原因はUGN側の情報漏洩であった。観客含む数十名が死傷。重軽傷合わせ200人を越える惨事となった。
レオニードとエレンにとって家族とも呼べる交響楽団は二人を残し全員が死亡。その中には無論エレンの夫の姿もあった。この時彼女の精神は現実に耐え切れず崩壊し、ジャーム化。暴走後FHにより拘束、回収される。エレンの両親と共に楽屋に来ていた当時1歳足らずの娘もまた、FHに誘拐される。
1997年- プロジェクト・アダムカドモン。ジャームを人に戻すという名目で打ち上げられたUGNとFHの共同計画。その被験体の中にエレンがいるとの情報を得たクラウスは、レオニードと共に収容中の派生施設に襲撃をかけた。そこで彼らが何を目にしたのかは定かではないが、記録によれば暴走したジャーム群との大規模な戦闘があったようだ。
三歳になるエレンの娘を救出した二人は幾つかの証拠資料を手に、施設を破壊した。
▼以下はクラウス氏が、レオニード・アンセム失踪前に交わした最後の記録である。
施設襲撃から数日、レオンはあらゆる連絡を絶っていた。不安に駆られた私は彼の家に訪れた。エトワールの事件を思い出していた、あの日私は祖国にいた。また、目を離している隙に大切なものが消えていくのではないかと、私の心ひどく怯え、そして焦燥に満ちていた。
『いるんだなレオン。入るぞ』
部屋に入って、私は胸を撫で下ろした。薄暗い室内でレオンは鼻歌まじりにモニターを眺めていた。
『ああ、クラウスか』
私に気が付くとレオンは少し呆けたような顔で耳からイヤーフォンを外して、椅子を回した。私は先程の不安は杞憂だったのだと思った、だがそれは違った。
モニター、病的に白いだけの部屋の隅で一人の女が首を傾けて忙しなく右腕を動かしている。
エレンだ。
押収した記録映像の中で、彼女は虚ろな目でひたすらヴァイオリンを弾く真似をしていた。
『いったい何を観ている』
『彼女のチャイコフスキーさ』
聴くか?そう言われて耳に近づけられたイヤーフォンを、私は払い落した。そこから聞えてくるのがヴァイオリンの旋律などではなく、彼女の抑揚のないうめき声だったからだ。
『レオン、私にはチャイコフスキーなど聴こえない』
『聴こえるさ』
レオンは画面に戻って、鼻歌の続きを歌い始める。私は理解した。レオンは彼女の動きだけで、彼女のヴァイオリンの全てを聴いているのだと。
滑らかな動きで右手がリズムを刻む。レオンはまるでオーケストラの只中に立つ指揮者のように振舞った。
私の友はあまりにも雄大な王であった。
腕の一振りが、視線のひと掬いが、次第に熱を帯びて世界を築く様を感じた。そこには確かに、黄金の旋律と謳われた獅子の王国があった。
『やめろ』
私は呻くように言った。自分の頬が小刻みに震えるのに気付く。涙が零れている。
一瞬、凡百な感性しか持たぬ私でさえあの日のオーケストラを幻視した。ならばレオンには聴こえるのだろう、見えるのだろう、私よりも遥かに鮮明で優雅な彼の愛したオーケストラが。だが
『聴こえないんだ、レオン』
部屋にはもう、静寂があるばかりなのだ。
『うおおおおおおおおっ!!』
指揮を止めたレオンは獣のような叫びを上げテーブルを拳で殴りつける。テーブルは木屑を散らしながら砕けた。
『何故だクラウス!?何故奴らは彼女に楽器を与えなかった!誰の目にも明らかだっただろう、残り一枚で埋まるパズルのように!与えればっ!与えてさえいればヴァイオリンは喜んで彼女をアーティストにしたっ!稀代の天才ソリスト、エレン・ヴィクトリアのその腕の中に何故ヴァイオリンがないのだっ!!?』
レオンは血のように涙を流した。私はその奥にある彼の魂から流れ出る痛みを感じた。
『見たとおりだクラウスッ!化け物である以前に彼女はアーティストだった!!見えるだろう、壊れても尚、天上のハーモニーを求め続ける彼女の崇高な魂がっ!?ならば何故!?何故彼女がこのような辱めを受けねばならない!?いったい誰が……っ!?これではまるでピエロだっ!!オーヴァードには楽器など要らぬとでも思っていたのかっっ!?ふ、ざけるなァっっッ!!!』
『レオンッ!?』
レオンから放たれた強力な「音」の振動共鳴。荒れ狂う音の洪水は、瞬く間に部屋中の物体を破壊し、粉砕し、吹き飛ばしていく。
『くっ』
反射的に電磁障壁を展開した私は、障壁越しに左の機腕で彼を殴打し雷針を打ち込んだ。
音は止んで、静けさの中に彼は倒れた。
楽譜の紙片が宙を舞っていたのをよく覚えている。それは枯葉のように、私と、彼に降り積もった。
残骸のような部屋の中心で、レオンは天井を仰ぎ見て言った。
『……なんという世界なのだ、ここは』
『落ち着くんだ、……いいか、まだエレンの娘が、アルベルタが居るんだ』
『アルベルタ……』
『そうだっ、まだあの子が居る。頼むレオン。どうかヤケにならないでくれ。いいか?今治療班を呼ぶ、そこでじっとしているんだ!』
この時の事を私はいつも後悔する。どうしてあの場を離れたのか。彼の手をとって、あの滅んだ王国から、どうして彼を救い出してやらなかったのか。
懺悔しよう。私は逃げ出したのだ。
直視出来なかったのだ、レオンの映し出す、いや、レオンが見ていた、そして彼を通して私が垣間見たあまりにも残酷な世界の真実を。全て悪い夢だと思い込みたかった。
だが、それはあまりにも、愚かな行為だった。
クラウス氏が部屋に戻った時には、倒れていたレオニードの姿は忽然と消えており。その数日後、UGNに保護されていたエレンの娘、アルベルタもまた行方を眩ませた。
2001年- 失踪から四年後。イスラエル近郊でレオニード・アンセムの目撃証言が相次ぎ、当時のミュンヘン支部、支部長クラウス・ヴィンデルゲンハイム(当時43歳)は急遽、自身を中心とした古参UGNエージェントによる捜索チームを結成した。
2002年- 慟哭のエルサレム。レオニードとエレン、そしてクラウス。三人の初めて邂逅から二十年。
二人の男は互いを敵として再び対峙した。この時、レオニードは新たに「オルクス」のシンドロームに覚醒していた。後の考証で明らかになる事実だが、マスターオーケストラ「レオニード・アンセム」は二つのシンドロームを極限まで使いこなす、言わば『クロスピュアブリード』である事が判明する。その原因は定かではない。
そしてこの日、レオニード率いるオーケストラセルの存在が明らかになった。
この戦いでクラウス氏は死去。捜索チームは一名を残して全滅し、その一名もまたオーケストラセルの声明をUGN側に伝えるために意図的に生かされたものだった。街ひとつ壊滅に追い込んだこの事件の死傷者の具体的な数は不明だが、重軽傷併せ数千人に上るとの見方もある。
まさしく未曾有の惨事であった。
▼以下が生き残った隊員の証言した、オーケストラセルの声明文である。
―――聴くがいい、我等はオーケストラ。終末の旋律で世界を踏み砕き、行進する演奏者だ。
臓物で聴くがいい。絶叫に見るがいい。眼球に祈りたまえ、我等の奏でる新たな世界の姿を。
我等はオーケストラ。変貌する世界の歓喜に打ち震える真実の細胞なり。

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